「相続」は人生にそうそう何度もあることではありません。
いざ自分のことになると、何から始めていいのかわからないのは当たり前の事と言えます。
とりわけ、次のような方が相続人にいたら遺産分割の話し合いも進まず途方にくれたまま時間ばかり過ぎていくのではないでしょうか?
- 「手紙など出しても連絡がつかず返送されてくる」
- 「仲が悪く連絡がついても一切話に応じない」
- 「故人の長男はかなり前に亡くなっている。その家族とは連絡をとっていないため消息がわからない」
- 「故人の前妻は亡くなっている。前妻との間の子とは連絡は全くないため消息がわからない」
- 「故人には愛人の子がいて認知していたことがわかった。どこにいるのか皆目見当がつかない」
- 「海外に若い頃行ったきり、今どこで何をしているのか全くわからない人がいる」
- 「行方がわからず生死も不明の人がいる」
「すでに相続が始まって途方にくれている相続人の方」 のみならず 「自分が亡くなった後が心配な方」 も含め、さまざまな状況に応じてどのような対策ができるか検討していきましょう。
相続における重要事項を確認しましょう
「相続」は被相続人(亡くなった方)の死亡と同時に自動的に発生します
相続財産の範囲や誰が相続人になるかは法律で定められています。
そして、被相続人が死亡した瞬間に相続人が自動的に共同相続します。(民法882条)
→相続財産の具体的な分割や不動産の登記名義の変更などは事後の手続きです。
遺産が分割されるまでは遺産は相続人の共有とされ、生死もわからない行方不明者や国内外で所在が不明で連絡が全くつかない人も共同相続人となります。
誰が相続人となるかは被相続人の死亡の瞬間に確定しますので、法定の相続人が誰なのか確認することが相続開始の第一歩です。
→被相続人(亡くなった方)が生前に認知していた子は非嫡出子として相続人になります。
(認知された子が相続を知らず遺産分割が終了しても相続回復請求権があります。また認知されていなくても被相続人の死後3年間は認知の訴えも可能です)
では、死亡はいつをもって認定されるのでしょうか
相続は死亡によって開始し、「相続人の確定」・「相続分および遺留分の確定」・「相続財産の権利義務の承継」などの効果が生じるために「死亡年月日時刻」は極めて重要です。
死亡には 「自然死亡」 と 「擬制死亡」 の2種類があります。
自然死亡は、「死亡診断書」「死体検案書」「死亡の事実を称する書面」のいずれかで認定されます。
擬制死亡は、「失踪宣告により死亡したとみなされる制度」です。
失踪宣告には、「普通失踪」と「特別失踪」の2つの種類があり、配偶者や相続人などの利害関係者が家庭裁判所に「死亡とみなしてもらう審判」の請求を行います。
これに加え災害により遺体が発見・識別できないような生死不明の場合は 「認定死亡」 や自然死亡として 「死亡証明書の添付による死亡届」 の利用も可能です。
死亡の認定があって初めて相続が開始します。
特に行方不明者の方がいる場合は失踪宣告等の手続きの検討は不可欠となってきます。
失踪宣告を受けた後に、失踪者の生存が判明したり、別の時期に死亡していたことが証明された時は、本人または利害関係者が家庭裁判所に失踪宣告の取消しを求めることができます。
失踪宣告によって財産を得た相続人は、失踪宣告の取消しによって権利を失い現に利益を受けている限度(=利益が残っている限度)で財産を返還します。(民法第32条第2項)
→失踪宣告された人の財産を相続した人が、ギャンブルなど遊興費で使った場合は返還しなくても良いととされています。
生活費にあてていたような場合には、その分は自分の財産の支出がなかったためその額を返還することとなります。
また、取消し前に善意(=失踪者の生存や宣告時と違う時に死亡したことを知らなかった)でなされた行為の効力に影響はありません。
→失踪宣告された人の財産である土地を相続したAさんが、その土地をBさんに売却した後に生存が確認されて失踪宣告が取り消された場合、AさんとBさんの両方が生きているということについて知らなかった場合は、Bさんに家を売った行為に影響はなくBさんはそのまま土地を自分のものとすることができます。
相続は「遺言相続」と「法定相続」の2種類があり対策が違ってきます
「遺言相続」=連絡のつかない人や行方不明者がいても大丈夫
遺言があれば原則として遺言通りの相続が行われます。
つまり他の相続人の協力なくして相続手続きが可能となります。
法定通りに有効に作成されていれば、遺留分の侵害以外は他の相続人は争うことができません。
→遺言を執行する場合、遺言執行者が指定されていれば遺言執行者が手続きを行います。
指定がなければ、相続人同士で話し合って遺言書の内容で執行することも可能です。
また話し合いがまとまらなければ家庭裁判所で遺言執行者選任の申し立てを行う事もできます。
遺言書があれば遺産分割協議も必要なく、連絡のつかない相続人や行方不明者を捜す必要もありません。
スムーズな相続実現に最も有効な対策といえます。
「法定相続」=対策が急務
遺言がなければ、遺産分割協議を行なわなければなりません。
誰が何をどれだけ相続するか相続人全員による遺産分割協議で行い、相続人が1人でも欠けている場合は無効となります。(民法第907条)
連絡のつかない相続人や行方不明者などがいる場合は協議がまとまりません。
相続人全員参加の遺産分割協議はどのように行うか
死亡によって開始した相続は、その時点では相続財産全体を相続人が相続分という割合で共有している状態ですから、個々の相続財産をそれぞれの相続人の所有として確定する必要があります。
この手続きが遺産分割であり、相続人同士の話し合いが遺産分割協議となります。
誰がどれだけ遺産を相続するかを話し合う遺産分割協議は、公平を期すために全員が参加しなければなりません。
一部の相続人が参加していない遺産分割協議は無効となります。
有効な遺産分割協議のために、戸籍謄本などで法定相続人をしっかりと確認します。
遺産分割協議の参加者は相続人だけではないケースも存在します。
下の表に該当する方がいればその方が参加しなければ協議は無効となります。
遺産分割協議がまとまらないうちに相続人が亡くなった場合はどうなりますか?
数次相続
被相続人の遺産相続が開始したあと、「遺産分割協議」が終了しないうちに相続人の1人が亡くなり、次の遺産相続が開始してしまうことを 「数次(すうじ)相続」 と言います。
→ 例えば、父親が亡くなり妻と2人の子が相続人となった時に、その相続に対する遺産分割協議が終了しないうちに妻がなくなってしまった場合はどうなるでしょうか。
本来であれば、父親の遺産についての遺産分割協議は母親と子どもたちで行います。
しかし、この協議の前に母親が亡くなってしまったため、子どもたちは父親の遺産の分割協議だけでなく、母親の財産についても遺産分割協議を行う必要があります。
また母親の遺産の中には、相続するはずであった父親の遺産も含まれるということとなります。
このように相続が2回以上重なっている状態を数次相続といいます。
更に詳しく知りたい方はこちら
数次相続と代襲相続の違い
行方不明の相続人が失踪宣告を受けた場合、被相続人の死亡後に失踪宣告が確定すると行方不明者の死亡時点が被相続人よりも後となるため、数次相続が発生し、行方不明者の相続人全員が相続人となります。
連絡のつかない相続人を探していたところ、被相続人の死亡前に行方不明者が亡くなっていることが分かった場合、代襲相続が発生し、行方不明者の子が相続人となります。
数次相続と代襲相続は「死亡日の先後」で決まります。
連絡のつかない相続人がいる場合は特に注意が必要となります。
数次相続=被相続人の死亡後に相続人(子または兄弟姉妹に限りません)が死亡したときは 「相続人の2次相続人」 が相続人となります。
代襲相続=被相続人の死亡前に相続人である子または兄弟姉妹が死亡したときは 「その子」 が代襲相続人となります。
連絡がつかない相続人との遺産分割協議
遺産分割協議が無効にならないための「相続人調査」
遺産分割や遺産の名義人変更などの各種手続きをしていく上で相続人は誰かを確認していくことの重要性は十分ご理解いただけたと思います。
「相続人調査」 とは、この確認のため、戸籍謄本等で被相続人の出生から死亡までの全部の戸籍を取り寄せて法定相続人を調べ確定していくことです。
→ 次の表の 「戸籍の種類と概要表」 をご参照ください。
一緒の家族として長年暮らしていても、前妻との間の子が何人でどうしているのかわからない、隠れて認知した子がいた、相続対策で家族に内緒で甥や姪を養子にしていたなど調べてみて初めてわかることが多いのも現実です。
→ たとえ自分たち家族間では相続人が明らかであったとしても、他人からはそれが真実かどうかわかりません。
銀行や法務局の登記などで遺産の名義変更をする場合は戸籍謄本など多数の書類の提出が必要ですが、客観的に証明する資料で相続関係を確認するためです。
① どんな場合でも共通して必要な謄本
a 被相続人の出生時から死亡に至るまでの連続した戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本
b 相続人全員の現在の戸籍謄本
② 故人にこどもがいる(いた)場合必要な謄本
c 故人より先に死亡した子 (同時死亡も含む)についての、出生から死亡までの連続した戸籍謄本
③ 故人にこどもがいない場合必要な謄本
戸籍謄本の取得や複雑な内容の読取りなどの戸籍調査は、司法書士などの専門家に依頼することができますので是非ご活用ください。
「すでに死亡している相続人がいる」 「兄弟姉妹が相続人になる」 「故人が結婚と離婚を繰り返していた」 「連絡のつかない相続人がいる」 等々、争いとなるケースがかなりあるため、円満に早期に解決するためにも専門家に是非ご相談ください。
連絡が取れない人への対応
手紙や電話も繋がるが、遺産分割協議に参加しない人
日頃からどんなに仲が悪くても、その人を外して遺産分割協議をすることはできません。
全員が一同に会し協議する必要はなく、順番に合意していく持ち回り形式でも有効ですが、全員の合意がない遺産分割協議は無効となってしまいます。
何度も協議参加を呼びかけても一切応じなければ協議は頓挫してしまいます。
このような場合は、どの相続人からでも家庭裁判所へ調停の申し立てができます。
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます(第907条第2項(遺産の分割の協議又は審判等))
家庭裁判所は協議に参加しない相続人に、調停期日を定め呼出状を送ります。
裁判所からの呼出状ですから、今まで話し合いを拒否していた人も通常は調停に応じることが多いようです。
調停の話し合いでまとまらなければ家庭裁判所に審判を請求し相続財産の分割を決定してもらいます。
家庭裁判所には家事手続相談室があるので事前の相談がおすすめです。
住所や電話番号など連絡先が全くわからない人
単純に疎遠にしていて住所や電話など連絡先がわからないだけの人
自分が知らないだけで親族の誰かが連絡先を知っているかも知れません。
身近な人に声かけをして聞くことで案外と連絡先がわかることもあります。
声かけをした人が知らなくても、その方が別の親戚に声をかけて消息を確認してくれることもあります。
→住所のみ知っている場合は直接訪問して確認したり、遠隔地であれば相続が発生している事情をしらせ協議の参加を依頼する手紙を送ることも必要です。
もし宛先人不明で返送の場合は、捨てずに記録のため保存をしておいてください。
最近はSNSを使っている方も多くインターネットで調べてみるのも一つの方法です。
完全な行方不明(生死不明)の場合
「親戚に聞いてもインターネットで調べても所在がわからない」 「海外に言ったきりどこで何をしているか全くわからない」 「行方不明になって5年たって消息がわからない」などの行方不明者がいる場合、次の手順により遺産分割協議を可能にすることができます。
ア 「戸籍の附票」で現在の住所を調べる
戸籍の附票は、本籍地にいる間の最初から最後までの住所変更の履歴が記載されていますから最終の住所地を調べることができます。
本籍地の役所で戸籍の原本と一緒に保管されているので、連絡が取れない相続人の本籍地の役所へ請求し取得します。
郵送での請求もできます。
附票の取得は、「請求する人が、連絡が取れない相続人と直系(親子や祖父母孫)」 であれば直系である地位で戸籍謄本や附票は請求できます。
もし「傍系(兄弟姉妹や叔父叔母甥姪など)」の場合は、相続関係の証明が必要で相当な労力がかかります。
住所がわかれば手紙や直接訪問などをして連絡を行いますが、現住所に住んでいる気配が全くないようであれば、家庭裁判所への「不在者財産管理人」選任の申立てを検討をする必要があります。
イ 海外の行方不明者は、外務省「所在調査」の利用を検討しましょう
外務省が実施する「所在調査」とは、海外に在留している可能性が高く、長期にわたってその所在が確認されていない日本人の連絡先等を確認する行政サービスです。 (外務省ホームページ 領事局海外邦人安全課所在調査より抜粋)調査対象者は生存が見込まれる日本国籍者で、配偶者及び三親等内の親族(三親等内の血族及び姻族)からの依頼に限っています。また親族間で長期間にわたり連絡がつかない状態が続き、所在も親族間で確認できない場合に依頼できます。海外での調査ですので依頼してから回答までに数か月かかる場合があります。在留届及び旅券情報から連絡先が判明し連絡がついた場合、個人情報保護の観点から、調査対象者に調査依頼人の氏名、調査の趣旨・目的を伝え、依頼人へ連絡先等を通知することについて調査対象者本人の同意を得ます。本人の同意が得られない場合は回答はありません。
ウ 完全な行方不明の場合は「不在者財産管理人」の申立てを行います
判明した住所には実際は住んでいないケースや行方不明で所在が完全に不明などの場合は遺産分割協議がいつまでも進みません。 こうした場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人の選任」申立てを行い遺産分割協議を進めます。選任された不在者財産管理人の権限は不在者の財産の管理に限定されますが、家庭裁判所の許可により遺産分割協議をすることも可能です。(民法25条-不在者財産の管理、民法28条-管理人の権限)選任申立ては相続人が行います。管理人となる人の候補者の希望は出せますが、家庭裁判所はこの希望に拘束されないため他の人がなることもあります。親族は利益相反関係になることも予想されるため一般的には第三者が望ましいといえます。遺産分割協議は不在者財産管理人を含めた相続人全員で行います。不在者には少なくとも法定相続分の財産を渡さなければなりません。行方不明の人であってもその財産=相続する(できる)遺産を勝手に少なくすることはできません。
エ 長期にわたり行方不明の場合は「失踪宣告」を検討しましょう
行方不明が長期にわたり、生死も全く不明な状態が続いているのであれば、「失踪宣告」 の検討が必要になってきます。
不在者財産管理人を選定し遺産分割協議が成立しても、行方不明者が現れるまで管理人はその財産を管理し続ける必要があり完全解決にはかなりの時間・費用がかかりますから、関係者の方に精神的な負担がかかることは否めません。
一方、失踪宣告は配偶者や相続人などの利害関係者が家庭裁判所に審判の請求を行い請求が認められるとその人は「死亡した」ものとして扱われますので、行方不明者の数次相続人なども含めて全員での遺産分割協議を開始することができます。
前述 「死亡はいつをもって認定されるのでしょうか」 で説明したとおり失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2制度があります。
(繰り返しの説明で申し訳ありません)
まとめ
連絡のつかない人がいても相続手続きはできます。
① 遺言書があれば原則として遺言通りの相続が行われます。
法定通りに有効に作成されていれば、遺留分の侵害以外は他の相続人は争うことができません。
遺言書を作成していない方は、 「揉めない」 「困らない」 相続のために遺言書の作成を是非検討してください.
② 遺言書のない相続は、連絡のつかない相続人がいる場合、全員参加が必須条件の遺産分割協議がなかなか進みません。
さまざまな困難なことも予想されますが一定の手順を踏めば相続手続きは可能です。
a 相続人の確定
b 行方不明者の所在確認
・戸籍の附票取得による現在の住所地の確認
・外務省「所在調査」による海外行方不明者の現在の連絡先の確認
c 手紙、電話、直接訪問などによる相続開始と遺産分割協議参加の呼びかけ
d 完全な行方不明の相続人に関する家庭裁判所への請求
・不在者財産管理人の選任申立て
・失踪宣告の審判請求
e 遺産分割協議の開始
・不在者財産管理人が参加する遺産分割協議
・失踪宣告が確定した人の数次相続人などが参加する遺産分割協議
連絡のつかない人がいる場合は司法書士など専門家に相談してください。
遺言書の有無にかかわらず連絡がつかない人がいる場合、調査や各種の手続きはかなりの時間がかかり複雑です。
関連する書類の迅速取得と内容確認、的確で最善な対応策の相談など、専門家に依頼することを検討してください。
遺言書がある場合でも、遺言書の有効性でトラブルになることが往々にしてあります。
故人の意思を尊重し円満に早期に手続きを完了するためにも専門家にご相続ください。
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